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2016.12.20

トークショー「スーツ生誕350周年 ~半・分解展とスーツの未来~」第二部

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2016年12月8〜12日、渋谷・ギャラリー大和田にて開催された「半・分解展」。これまで京都、名古屋と巡回してきた本展示会の魅力はなんといっても、博物館級の歴史的価値ある衣装が半分に分解された状態で展示されていることにある。この大胆な試みは服作りに携わる方はもちろん、テーラーやパタンナーを志す若者、そして古着が好きな一般の方にまで反響を呼び、広告などを一切していないにもかかわらず累計1,400人を超える来場者が集った。

11日には2部構成で「スーツ生誕350周年 ~半・分解展とスーツの未来~」と題したトークショーがおこなわれ、第二部では、第一部に続き、服飾史家で明治大学特任教授の中野香織氏が登壇。ゲストにパンツ専門職人・パンタロナイオ 尾作 隼人氏、テーラリングコンサルタント 吉田 泰輔氏の2名を迎え、10年後になくなるといわれている職業・仕立て服(手縫い)といわれるスーツの現状に対する現場の声を語った。終了後にはフリートークタイムが設けられ、ゲストと聴講者の交流が盛んにおこなわれた。

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■ビスポークテーラーの現状

―尾作―
大きな括りでの印象はあまりいい状況ではないと思います。人材はいないですし、職人の高齢化も進んでいます。そのなかでどうすれば?という状況を日々突きつけられて、なんとか足掻いている状況ですよね。ただ、ビスポークの場合は、生産数も少ないですし、価格も比較的高いのであまりタマがなくても食べていける。そういう意味で工場の方が規模を維持したり現実的な問題が大きいと思うので、その片隅で細々とやらしてもらってます。不足、職人の高齢化、生産数も少なく価格も高いのでお客がつけば大丈夫、工場の方が現実的には大変

 

―吉田―
20代、30代の若手職人が増えていることは嬉しく思っている。しかし、ビスポーク業界で目立つのが最低賃金すら出せないような状況→すると若手が育たない(人手不足)→改善しないと持続性がなくなる。この状況が続くようなら職業としての存続は難しいのではと思う。

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■(既製服を含めた)テーラーメイドの現状

―尾作―
ビスポーク職人はマスな目で見れば必要とされていない。手縫いでスーツを作らなければダメだという顧客がいない。ニーズがないから作り手も減る。望む望まないは関係なくビスポークテーラーは作家的なポジションになっている。人気作家には注文が集中するが、他は必要十分な条件さえ満たせば既製品で満足してしまう。

僕は自宅の1室で仕事をし、PCもまったく使えないがスマホ1台で日本全国〜海外からも引き合いがある。SNSの普及でポジティブな要素として捉えている。それとは対局の既製服、リアルクローズは価格の面でもビスポークとは違う挑戦。既製品は既製品でなければならない。その中で自身で縫っているということが商品開発になっている。それを工場に落としこむ。自身でブランディングして魅力のあるブランド・商品をつくってモノを売ることで工場に仕事を出せる。そのためにはビスポークも既製品も両方やらなければならないと思って日々取り組んでいる。

 

―吉田―
工場生産も似たような状況です。一部のオーダーを受けている工場は活況で、仕事がパンパン状態で納期遅れが発生。今年に入り既製品を取り巻く環境が一変、原因に百貨店を中心にしたアパレル不振。景気が上向きそうなタイミングで値上げを急ぎ過ぎた。つい最近までの円高の影響で海外生産へシフトする動きも見られた。

価値を提供できない→需要がない→続けていけないので工夫、差別化ができている工場が生き残る。

 

■尾作氏が自身で納品に行く理由

―尾作―
注文、仮縫い、納品と最低3回会う機会がある。自分で採寸して型紙をひいてフィッティングする際に検証ができ、なによりも学びがある。本縫いと仮縫いで具合が異なり、その具合の違いをつかむために自分の目で見ないと得るものが少ない。そのプロセスを経るために1つひとつが貴重な勉強の場なのでお客様と必ず会うことが1つ。もう1つは、作ること自体をを楽しむことを重要視しているお客様も多いのでコミュニケーションも一つの重要なパッケージと捉えている。

 

■吉田氏から見た海外生産の現状

―吉田―
ベトナム工場にかかわっているがスーツに限って言えば、スーツの海外生産は良いモノを作る上で管理の面が難しい。指示通りにやってもらうことが国民性の問題だったり、日本人が常にいる状況であれば良い方向に動くが、そうでない場合、スーツは細かい箇所で工夫が必要なのでそういう部分は難しい。そんな中でも作業方法、管理方法を工夫すれば国民性はあるにしても真面目な現地人もいる。システムを守ってくれる人を育てていけば、海外生産でも国内に負けないものづくりはできると思っている。ただし、安いものを求めて海外に行くとかという状況は頭打ちになるかと思う。輸送距離の問題や後進国であっても、経済成長をして賃金UPしているのでコスト面で変わらなくなってきているので難しいのではと思う。

 

■これからのテーラー業界に求められること

―尾作―
自身がビスポークでモノを作る際には、圧倒的な差別化を使命としている。あらゆる工程に意図をもって、トータルとして出来たモノが圧倒的に優れたものである。見た目、履き心地ともに絶対的に求めなければ生きていけない。日本の職人はアジア圏からは注目されている。人材を育てる。現実問題にぶつかっていく。

<尾作氏の製品が優れている理由>

工場では再現が難しい型紙。折り目がまっすぐ、お尻のフィット感。なにより履き心地がよくなる。ビスポークでしか再現し得ないフォルム。

 

―吉田―

<テクノロジーとの結びつき方>

3Dプリンター、3Dスキャナー、3Dフィッティング、などの新しい技術は、今までの洋服の買い方だとか、服作りの現場も一変するという意味で業界に革新をもたらしてくれるのではないかと思っている。VR、ARも同じでショッピングの仕方を変えたり、時代の流れには逆らえないので、テクノロジーの進化を拒否するのではなく積極的に受け入れる。開発していくぐらいの勢いが必要かと思っている。

<これからの課題>

それぞれの技術者がお互いの業界のことを知らない。スキャンしたものをどうやって精度高く型紙に落としこむか。オーダー業界は盛り上がっているがフィッター不足、同じお店で同じ型紙を使ってもフィッターが違えばまったく違う服に仕上がるのでフィッターは非常に重要。フィッター自身にフォーカスが当たるように業界を上げて取り組む。

 

■テーラーを目指す若手へのメッセージ

―尾作―
自身では一廉(ひとかど)の職人になりたいと思っている。仕立服(手縫い)が職業としては廃れたとしても作家的ポジションであったり他にないポジションを築ければ、この先も暗いばっかりではない。そのためには主体性を持って取り組むことがどうしても不可欠。仕事の幅を広げて受け入れられる準備をとにかく作る。悲観的にならず壁さえ超えてしまえば先が見えてくる。

 

―吉田―
ビスポーク(手縫い)はなくしてはいけない。守るべきものを保守するために変わっていかなければならない。根本を捨ててはいけないが、身体も頭も使って、変化を恐れず進化していく。

工場にとってもチャンスだと思っている。淘汰されてくなかで差別化を上手くやれば、やり方次第でどこに力点を置くかだと思う。工場へ指導する立場として、できるだけ技術を理論化しなければならないが、常に検証を繰り返し突き詰めていけば、これまで伝統的に手間をかけてきたことが正しかったのかということまで見えてくると思うので、頭を使ってほしいと思う。

 

■中野氏の感想

お互いが切磋琢磨してスーツ業界が活性化していくととても良いと感じました。作家性が発揮できるのはチャンスですね。今はSNSがあるので、パソコンがなくともスマホ一つで国内外から注文が入る。ある一定のレベルまでいって自分のスタイルを確立するとチャンスになるというのは興味深いです。

 

フリーモデリスト 長谷川 彰良氏

ESMOD JAPON 東京校卒。企業パターンナーを経て2016年9月フリーモデリストとしての活動を開始。在学中から 自身のBlog「RRR129」にて、19世紀半ば~20世紀初頭のヨーロッパにおけるラウンジスーツ、ハンティングウェアを中心に、パターンや縫製について独自の研究成果を公開。国内外から注目される。「100 年前の感動を100 年後に伝えたい」をモットーに活動中。

 

講師・明治大学特任教授 中野 香織氏

服飾史家、エッセイスト。明治大学国際日本学部特任教授 過去2000年の男女ファッション史から最新モード事情まで研究・執筆・レクチャーをおこなっている。 東京大学大学院博士課程単位取得満期退学、ケンブリッジ大学客員研究員を経て文筆業、2008年より明治大学国際日本学部特任教授。専門はファッション文化史、ダンディズム、イギリス文化史。著書『モードとエロスと資本』(集英社新書)、『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』(新潮選書)、『愛されるモード』(中央公論新社)ほか多数。監訳『シャネル、革命の秘密』(ディスカヴァー・トウェンティワン)ほか翻訳書多数。『英和ファッション用語辞典』(研究社)監修。新聞・雑誌・ウェブでの連載記事多数。

中野香織氏のホームページはこちら
http://www.kaoriーnakano.com/

 

<ゲスト>

パンタロナイオ(パンツ専門職人) 尾作 隼人氏
https://www.instagram.com/osakuhayato039/?hl=ja

テーラリングコンサルタント 吉田 泰輔氏
https://www.instagram.com/taisuke.yoshida/

 

ホルス(若手パタンナー育成プロジェクト)
2011年5月の設立。「ホルス」は、パターン製作の第一線で活躍する若い世代へ日本の技術を紹介し、体験・修得することを目的にした団体。
http://www.toray-acs.co.jp/horus/

 

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