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男性ファッションに西洋の帽子が取り入れられたのは、明治中期。脱帽など欧州式の紳士のマナーとともに入ってきた。ネクタイと同じく個性が発揮できる数少ないツールであり、昭和初期の都会では一般的な夏の男性ファッションだった。麻のスーツにパナマ帽。ちょっとした仕草に漂うゆとり。帽子は作法をわきまえた紳士の小道具でもあったのだ。
大阪市でオリジナルブランド「BUNJIROW」を展開する西川製帽は、代表であり4代目の帽子職人である西川文二郎氏の曾祖父が明治27年に神戸元町で開業した帽子メーカー。代々受け継がれてきた帽子づくりは、原型となるパナマやフェルトの”帽体”を一つひとつ型入れし、手作業によるいくつもの工程を経ることで完成する。昔ながらの機械に囲まれながら、ひたむきに帽子づくりに取り組む姿がそこにはあり、しなやかで張りのある美しい仕上がりは作業の丁寧さを物語る。
原型となる帽体は南米エクアドルの現地で手作業により編まれるため、編み方や乾燥具合など一つひとつが異なる。素材の状態を見極めながら、均一な仕上がりになるようにプレスするのが帽子職人の腕の見せどころ。プレスで使用する鋳物の金型は全てオリジナルで、重さは約30kg。夏場は40℃近い暑さと、むっとする蒸気が立ち込めるなか、形状ごとに何度も型を変えながら成形していく。圧力をかけた際の蒸気が立ち上る様は機関車のようだ。その工程を日に200回程もおこなうというのだから、その労力たるや感服する。型はカッチリ、風合いは残す。これが「BUNJIROW」の持ち味である。
コンパクトな工場だが、それゆえ社内はコミュニケーションが活発で、まさにアットホームな雰囲気。文二郎社長をはじめ、皆に笑顔があふれ、家族然とした仲の良さが伝わってくる。職人のひとりであり、文二郎社長の娘婿・ワハブさんはガーナ出身の力持ちでやさしい紳士。今後の西川製帽を担う娘夫婦の活躍にも注目したい。
販売は、全国百貨店等でのオーダー受注会のほか、ホームページでの注文も受け付けている。2015年には実店舗も構えたことで、作り手が直接販売する本物のパナマ帽が安心のクオリティーで手に入れられる。本格的な帽子はオーダーメイドで手間暇がかかる分、愛着と一生ものの豊かさが味わえ、春夏の涼しげな装いを格上げする小粋な男のお洒落を演出してくれるツールとなってくれるだろう。