河合――まず、穂積さんとアイビーとの出逢いについてお話聞かせていただけますか。
穂積―――ファッションイラストレーターを目指すようになってから、特にメンズファッションを専門にやりたいと思うようになって、その参考資料としてアメリカの男性用の服飾雑誌を何冊かヨーロッパから送ってもらってたんです。その中に“今期のファッションテーマはアイビーリーグモデルだ”っていう特集記事があったんです。それを読んでたら 「うん、これしかない」と思って、それをたとえばメンズクラブとかで売り物にしようなんて気はなくて、「これ、おれが着たいなぁ」と思ってたんですよ。そしたら、ああいうことになっちゃったんですよ。はじめはその本が最初ですね。
河合――建築の方のイラストレーションをやられていたんですよね?
穂積―――建築事務所に行ってたんです。けど、建築に僕は絶望しまして。「どうしよう、目も疲れてるし…絵だったらなんとか頑張れるかなぁ」みたいなところがあって、絵の方にいっぺんに転向したんです。僕はパッと変えるとき思い切り早いんですよ。
河合――どんな本や映画に影響を受けたのでしょうか。
穂積―――いわゆるアイビーでカッコいいと思ったのは、アンソニー・パーキンス主演の『のっぽ物語』。今はなかなか映像で見れないですが、これは良かったですね。アイビーの服を着てるっていうのは割かし少なかったと思います。
河合――アイビーリーグ以外の大学生ってどんな格好してたのかと、ふと思ってしまうことありますよね?
穂積―――ありますね。それがアイビーじゃなくても普通の高校生や大学生がこんな格好するようになったんだっていうのは『アメリカン・グラフィティ』あたりですね。あそこらへんを見るとホッとしますね。
河合――お着物の方はどういった経緯で着られるようになったのでしょうか。
穂積―――新聞の連載小説の挿絵で髷(まげ)物を描くことになったんだけど、着物を描けなくちゃいけない、着物むずかしいんですよ。立体裁断じゃないから洋服のおつもりみたいに思って描いてると、どうにもおかしくなる。やっぱり、いっぺん自分で着物着てみようと思って自分で着物を着出したんです。それから洋服も着物に関しても、僕はもうこの年ですから誠にコンサバでして、トップファッションをバリバリ着てやろうという、そういう元気はもうなくなっておりますね。そのかわり、戦前の私の親父さんたちの世代が着てたような、あんな風に着たいなというような、ややレトロでノスタルジックな気持ちはあります。
河合――やはり穂積さんにしても、戦前のスーツ姿、着物姿のオトコたちは格好よかったですか。穂積―――うん、格好よかったというよりも、“オトコっていうのはこういう格好するものだ”っていう風に植え付けられましたからね。「三つ揃え着たら、ここに鎖を垂らすんだ」とかね。なるほどっていうようなことがありました。
河合――ある種、決めごとのなかでですか?
穂積―――自分で工夫してデザインしてこんなものっていうのは、あんまりないんですよ。真似してるっていうわけでもなく、それを組み合わせていく。コーディネートの組み合わせにその人の個性が出ますから。僕のコーディネートのよくやる常等手段は、たとえば靴下とネクタイを同じ色にしようとか、靴下とセーターなんか同じ色にするっていうの、こういうのよくやるんですよ。女性もそうでしょうけど、僕はオトコの服の見た目の美しさや完成度っていうのはやっぱりコーディネートにあると思ってるんです。だからコーディネートを優先させるので、実を言うと僕自身はブランドにはあんまり関心がない、というか知らない。無知なんです。
河合――就職なさった方やこれからスーツを着ていこうという方に着方や選び方のアドバイスをするとしたらいかがでしょうか。
穂積―――あんまり流行にどんぴしゃりで乗らない方がいい。つまり、行き過ぎないでちょっと後退して少ぉーし流行を外れたとこをほんのチラッと見せてもいいかなと。これ、むずかしいんですよ(笑)
河合――服にこだわらず、こういうものがそうなんじゃないかという穂積さんの考えていらっしゃる“ダンディズム”とは?
穂積―――それはむずかしいんだけど、僕自身はこういう人間になりたいっていうイメージは、やっぱりある種の正義や、ある種、審美眼を備えている。だから出るとこ出るときには照れないが、そんなにしゃしゃり出たくはない。そういうのが“粋”だと思ってる。このくらいの要素ですかね。
河合――最後に、昨年出版されたアイビーの本(『絵本 アイビー図鑑』)について、どういう思いで作られたのでしょうか?
穂積―――大変でした。全部新しく描いて、全部色刷りで。そのかわり、ページ数が少ない。「ページ数の少ない割に高い本だね」って言ってますけれども、自分の言わんとするところがかなり出た。今度新しくしたのは子供のキッズアイビーと、何と言っても和服もトラディショナルの一つなので、和服をバンッと入れたのが特徴かと思っております。