河合――私と同じ京都、しかも同じ町内の出身ということで、70年代から雑誌を通じていろいろ私は教えていただいたんですけど、その松山猛さんにお伺いしたいと思います。まず、ファッションに興味をもたれたきっかけについてお話聞かせていただけますか。
松山―――いくつかの要素はありますけど、やっぱり父親の存在は大きかったと思います。勤め人というか自分で会社やってましたけどね。仲間と組んで。年中、仕事の時はスーツ着て、夏なんかは麻の三つ揃え、当時の割とスタンダードな格好だけど結構おしゃれ好きな人だったんでね。あと、8歳年上の姉がいるんですけど、彼女が最初に就職して初任給もらったときにね、ボタンダウンのシャツとかローファーをプレゼントでくれたんです。それなんかも大きなきっかけになったんだと思います。中学生くらいかな。
河合――いわゆるテーラードというか、スーツを着られるようになったのはどういったきっかけだったのでしょうか?
松山―――それはやっぱりもうちょっと大人になってからかな。京極に「ミキ」ていうメンズショップがあって、そこで高校時代にアルバイトしてたんですよ。着出したのはその頃かな。いくつもブランドありましたからね。クロシェ・ド・オール、エドワーズも出てきましたね。一般的にはVAN、JUNが多かったけど、あと、Mr.VANってのが出てきて、その辺りも着てましたかね。
河合――その後、東京に出られて、雑誌のことなど色々なさってたと思うんですけども。その当時の雑誌のおもしろさとか、ここがおもしろかったことなど教えていただけますか。
松山―――それまでになかったビジュアライズとかね。もちろんそれ以前から関わりましたけど。あの頃ってなんでもネタになったっていうか、日本人が知らないことが本当に山ほどあって。例えば、アウトドアのスポーツにしろ、いろいろ吸収する時代だったと思いますね。日本の若い人たちもそういう知識に飢えてたからすごい吸収してくれてね、とてもやりがいのある時代でしたね。こんなやり方やってたらすぐにネタが切れちゃうんじゃないかっていう大人の連中もいたんだけども、でも「世界に若い人何人いると思ってるんですか? そいつらがひとつずつアイデアもってたらね、永遠にネタなんか尽きませんよ」って言って、その通りになりましたけどね。
河合――そういう時代があって、その頃から松山さんのお得意な時計の世界なんかもいろいろ知っていかれたわけですか?
松山―――そうですね。1969年に、日本でクォーツ時計が完成してね。すごく革命的な発明だったんだけど、いよいよ世の中がどんどんクォーツ化に向かっていって、ちょっと凝った時計っていうかな、機械式でも例えばカレンダーシステムが付いてるとか、ストップウォッチ、クロノグラフとかそういうものが作られなくなる時代が来るんじゃないか、みたいな危機感がひとつあって。自分自身が使ってたやつがちょっと故障したりしたもんだから直しに持っていったらね、町の修理できるおじさんが「いやー、いい機械入ってるよね」とか言うんで、「こういうのをいい機械って言うんですか」って。じゃあちょっとバックアップに何本か買っとこうかなと思って、それが最初のきっかけですかね。そうこうしてるうちに、クォーツって時間は正確だけど一種のブラックボックスなんでね、正確過ぎるのがあまり気持ち良くないってことに皆が気がつきだして。そんなこんなで、ずっとそれ以来、40年位経ちますかね。
河合――松山さんと言えばフランスのアルニスをいつも着ていらっしゃるし、今日もお召しになっておられるんですけど、どの辺りが惹かれるんでしょうか?
松山―――まぁ僕は、フランスもイタリアも好きだし、イギリスも好きなんですけど、やっぱりアルニスは独特ですよね。普通の世の中の流行とはまったく関係ないとこにあるんで重宝してますね。フランス人て、それこそ色にしても上手いですよね。カジュアルな世界でも例えばマリンルック的なやつにしても独特。そういう世界があるからかもね。
河合――テーラードスタイルもね、一目でもう分かるフランスの形というのがありますよね、たしかに。お好きな映画とか絵、本などあればお聞かせください。
松山―――映画はね、昔、フレンチコメディーよく見ましたね。最近あまり入ってこないね。ルイ・ド・フュネスの「ニューヨーク大混戦」「パリ大混戦」とか、パリの風景がいっぱい出てきておもしろかったり、やっぱりフランス映画が好きですね。昔ほど入ってこないのが残念だな。
河合――松山さんが考える“ダンディズム”とは?
松山―――自分に対して真面目に生きる。カチカチの真面目じゃなくて、やりたいことをやれ!と。自分の好きな世界を見つけて、熱中して。心の在りようもダンディズムだと思いますね。カミさんに言わせると、ダンディズムを語る前にもうちょっと痩せたらって言われます(笑)。まぁそんなよくばってもしょうがないし、なにかを犠牲にして生きるのはあまり好きじゃないですね。家族も変なオヤジだなと思ってると思うけど、それはそれなりに認めてくれてるんじゃないですか(笑)。
<スタイリング>
ジャケット / Arnys(アルニス)
シャツ / オーダーメイド
タイ / トゥモローランド
チーフ / Dunhill
ベルト / LAVA
スラックス / バディ
靴 / イタリア
バスクベレー / Elosegui