栗原:
本日は 服飾評論家の出石尚三さんにお越しいただきまして
スーツと帽子について伺えればと思っております
先生は「男が変わる帽子術」はじめ
様々な帽子と洋服にまつわるお話を執筆されていますが
出石:
スーツの出発点っていうのが
ぼくは帽子じゃないかと思うんですね
帽子から始まって スーツが本体で
最後の着地点が靴だというふうに考えているんですね
靴を履かないでスーツを着る人はいないですよね
同じように やっぱり本来から言うと スーツを着て
出掛けるときの仕上げ材は帽子なんですよね
ことに スリーピーススーツの場合は
絶対に帽子を被ったほうが スーツが生きてくるんですよ
帽子を被らなくなったのは 戦後でありまして
戦前は映画俳優であろうが 映画を観に行く人であろうが
みんな帽子を被ってたわけですよね
帽子を被るのが当たり前 帽子を被らないのは変
戦前の小説なんかを読んでいると
道を歩いていると 向こうから帽子を被らない男が歩いてきた
なんて書いてあるんですね
それは 変なやつが来たよってことなんですよ
ですから それぐらいに帽子を被ってたんです
チャップリンのボーラーという山高帽
あまりにも有名なんですけれども
あれは実は 一市民という話なんです
1920年代に どうしてチャップリンがボーラーを被ったか
というと 私は一市民ですということなんですね
どうしてかというと
当時のエリート階級の人はみんなシルクハットだったんですよ
一般の人々 市民からすると
シルクハットを被ってますというのは 気取ってるんですよ
我々と違う上流階級の人なんだから
一目も二目も置かなければならないということですよね
栗原:
昔も 帽子は非常に高価なものだったということですよね
今よりも
出石:
昭和10年代でいうと
一着のスーツを仕立てる値段がですね
初任給の2ヶ月から3ヶ月分だったそうです
帽子は 当時は舶来品が多かったんですよね
昭和10年代でいうと 初任給の1ヶ月分くらいなんですよ
それが普通だったんですよね
だから それだけ良い物だし 大事に被ったんです
栗原:
以降はどうなんでしょう?
70年代くらいからですか
帽子をどんどん みなさんが被らなくなったのは
出石:
普通 男は化粧をしないじゃないですか
女の人は化粧という奥の手がある
男の顔に陰影をつけてくれるのは
何よりも帽子なんですよね
そうすると やはり帽子というのは
男の化粧品だというふうにも言えるわけですね
それと やっぱり一番大事なことは
今 若い人で けしからんのがね
挨拶ができない
帽子を被ると
絶対挨拶が上手になりますからね
だから 挨拶をするためにも
男のフェイスにシャドウをかけるためにも
みなさん ぜひ帽子を被りましょうと
声を大にして言いたいんです
栗原:
当社はまもなく創立100年なんですが
創業当時は ほとんど紳士帽だったんですよね
戦後になって どんどん男性が被らなくなって
女性や子供の方が多く被られるようになって
取扱いも変わってきたんですけれども
主に フェルト帽が多かったんですかね
出石:
そうですね ソフトハットというのは
実によくできた言葉だと思うんですけれども
なぜソフトハットかというと
それ以前はハードハットだったわけですね
ボーラー、シルクハット、オペラハットなど
叩くとコンコンという硬い帽子
硬い帽子は身分が上なので
もう少し我々一般の男たちは 柔らかくていいじゃないかと
1920年代からですね
ソフトハットを被るようになったというわけなんですが
ソフトハットの良いところはですね
自分で形をつけられるんですね
オープンクラウンと言うんですが
こういうふうに 丸いまま被ることもできるし
オフ・ザ・フェイス、スナップ・ブリムなど
ひとつの帽子でありながら
ソフトハットに限っては 色んな表情がつけられる
同じ帽子でありながら まったく表情が変わってくる
これくらい変幻自在なアクセサリーも
ちょっとないんじゃないかと思うんですね
ですから もっと自由にできるよ
変化をつけられるよ ということが分かったら
これは面白い
というふうになると思うんですね
だから やっぱり
帽子が縁遠くなっているというのは
我々があまりにも 帽子に対する知識が
無さ過ぎるんじゃないかと いうふうに思うんですね
ひとつ提案したいことがあるんです
おしゃれな男の人って
予備の靴を持っているんですよ
予備の靴を持っていて 一足はスニーカーで
会社に着いて社長室に入るときはレザーシューズに履き替える
帽子も変えればいいんですよ
栗原:
もともと 帽子もオンオフがあって
シルクハットはオン、ハンチング帽などはオフ
ハンティングのときには ハンチング帽を被ったり
シーンによって使われ方が違っていたんですよね
出石:
それを敷衍しますと
今の時代もTPOで帽子を使い分けて
帽子を一日の生活の中で 何度か被り替えるということが
あっていいんじゃないかと思うんですね
<撮影協力>
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