河合――日本で一番古い洋品雑貨店としてスタートされた横浜・信濃屋の顧問をしていらっしゃる白井さんにいろいろお尋ねしたいと思っています。まずは、白井さんが洋服に目覚めたきっかけなどをお聞かせいただけますか?
白井―――幼少時にね、母親の影響が強かったと思うんですよ。父親はそういう感じではなかったんですけれどね。大体、母親がモノを着せるでしょ? 幼稚園のとき、きれいなブルーの革靴を履いてたのとか、銀色の大きなボタンが付いた赤茶のオーバーコートを着てたっていうのは今でも覚えてますね。
河合――お母様が作られたのですか? 当時のことですから当然仕立てさせてということなのでしょうか?
白井―――作ったのではないでしょうね。どこからか買ってきたのかそこはわからないですけど。戦後になってすぐ、僕が小学校2年のときに終戦になって、横浜ってのはけっこう進駐軍が多かったですから、その影響も多分にありますね。進駐軍の本庁にバンカーズクラブというのがあって、小母がそこで偉い人の秘書かなんかやってたんで、シアーズ・ローバック、モンゴメリーワードなんかのカタログのバックナンバーをうちへしょっちゅう持ってくるんですよ。小学校から中学校の頃そういうのを見ては、着たいなと。靴なんかは買ってもらったことあります。メールオーダーでね。
河合――青春時代はそうして過ごされて、割と早いときに信濃屋さんに入られて、そこからは信濃屋さんのお洋服を着られるようになったのでしょうか? 白井さんの着てらっしゃるものとか、お持ちの古いものとかを見るとやっぱりアメリカがベースにあるなっていうのがすごく感じられます。
白井―――原点ですね。今はみんないきなりイタリーにいっちゃってるでしょ? そうじゃないんですよ。やっぱりイギリスを通ってアメリカを通ってから、イタリーっていう順序じゃないと、いきなりイタリーいっちゃうとね、ちょっと違うんじゃないかっていう気がします。
河合――信濃屋さんのお話をお聞きしたいのですけれども。入られてからいろんな逸話があるかと思いますが、信濃屋さん自身についてお聞かせいただければと思います。
白井―――昭和30年、高校3年生のときアルバイトでいって、正式入社は昭和36年。その頃ってなんにもないんです。まだね。それこそ輸入品てのはあまりないんですよ。でも戦前からボルサリーノとかバーバリーとか直で輸入してたので、そんな話よく聞きました。
河合――昔はお客さんでもお洒落な人が多かったってよく聞きますが。
白井―――昔の人はね。いろいろ教わったこともあります。ひとり飛び抜けてお洒落なお客さんがいまして、「君ね、麻の洋服ってのは、仮に三年着るとしたら二年は無駄に着るんだ。最後の一年で洗濯・クリーニングしながら少しホケホケしてきたぐらいのを着るのが麻の洋服なんだよ」ってことは言ってた人がいましたね。
河合――十分馴染ませてから楽しめみないなことなんでしょうかね。このDress up Menのウェブサイトでも洋服の販売に携わっている方も沢山いらっしゃると思うんですけれども、長年のエキスパートである白井さんからアドバイスしていただければと思います。
白井―――まず観察ですね。お客さんが入っていらしたときにも、よく上から下までジロジロ見られるってこともよく聞くんですけどね。やっぱりさりげなく観察してないといけないんですよ。お客さんにすすめることに関しては、自分がいいと思ったもんじゃなきゃ私はすすめないんですよ。だから紳士モノしかやらない。婦人モノはスカート履いたことないし、ストッキングも履いたことないから。自分が好きじゃないモノを売るってことは僕はしないです。口先だけになっちゃうでしょ。心が伝わらない。
河合――白井さんが洋服を着ていくうえで、昔のことですから映画が一番参考になったかと思うんです。
白井―――そうですね。当時はやっぱり西部劇ですね。圧倒的に。ジョン・ウェイン、ゲイリー・クーパー、その辺が中心だったんですけど、やっぱりクーパーなんかは好きでした。ジョセフ・コットン、ジーン・ケリーの帽子の被り方とかけっこう参考にしました。
河合――音楽の方はいつもカントリー&ウェスタンが白井さんご自身でも、、、
白井―――そうそうそう。それも戦後すぐの影響です。中学くらいのとき、今の伊勢佐木町にはないですけども、進駐軍のスーベニアみたいのもけっこうあってね。町でジュークボックスがかかってるんですよね。それはもうカントリー&ウェスタンが多かった。それの影響でかっこいいなと思ってそれからです。
河合――洋服や生き方も含め、白井さんが考えるダンディズムとはなんでしょうか?
白井―――バランスだと思うんですよね。洋服に限らず全てにおいて。ファッションとかそういう言葉はあまり好きじゃないんですよ。男性に関しては。だからその辺も“ナチュラル”ってのが一番いいんじゃないかって自分では思ってるんです。だんだん自分のスタイルになってくるわけでしょ。流行に左右されないっていうのかしらね。
<スタイリング>
ジャケット / パターンオーダー(信濃屋)
シャツ / FRAY (イタリア)
ベスト / パターンオーダー(信濃屋)
タイ / CARLO BARBERA (カルロ・バルベラ)
チーフ / イタリア製
サスペンダー / ALBERT THURSTON (アルバート・サーストン)
スラックス / CARLO BARBERA (カルロ・バルベラ)
ソックス / Sozzi (ソッツィ)
靴 / SILVANO LATTANZI (シルバノ・ラッタンツィ)
HAT / CARLO BARBERA (カルロ・バルベラ)
ストール / HERMES
コート / Chester Barrie(チェスター・バリー)
手袋 / HERMES