河合――フランス・パリの老舗「カフェ・ド・フロール」でギャルソンとして働いていらっしゃる山下哲也さんにいろいろお尋ねしたいと思います。まず、パリのカフェ文化を継承なさっている山下さんから見て、日本の残すべき文化、男性の心構えをどう感じているかをお聞かせください。
山下―――今、フランスでも本来持っているオリジナリティーといいますか、文化的なものがどんどん喪失していってるのが現状なんですけど、これだけ人の流れ・モノの流れの早い東京・日本の中で、今日撮影で使わせてもらっている「CHIANTI」さんのように、例えば1960年から創業していて、当時は本当に煌びやかなお客様で溢れていた。カッコイイ大人たちがいっぱいいたと…。こういう場所って学校だと思うんですよね。実際そこに、ふと紛れ込んでしまった若造がそこにいる大人たちを見て「彼、すごいカッコイイな」「ああいう服の着こなし方って大人だよな」、ファッションに限らず仕草ひとつから勉強になると思うし、最初は“ものまね”というか、でも“ものまねも続けていれば自分のものに出来る”じゃないですけど、自分たちが、例えば今20代の男の子たちに“カッコいいな”と思っていただけるように、こっちはもっとカッコつけなきゃいけないし、“真の意味での大人のカッコよさ”を持った大人に自分自身もなりたいと思ってるんですよね。
河合――日々パリにいらっしゃる中で、フランス人男性のファッションスタイルについてはどう見ていらっしゃいますか?
山下―――ヨーロッパという大陸の中でイギリスがあって、イタリアがあって、その両方の良さや感性をミックスした中間点の部分がすごい強いと思うんですけど、その一方で、結構フランス人てアメリカが大好きだったりするので、皆リーバイスのジーンズとか普段履いてみたいな。
河合――ヨーロッパ文化のベースができてるから、日本人が真似をするアメリカンの服じゃなくって、そのベースの上に成り立ってるアメリカンなんでしょうね、きっと。
山下―――そうだと思いますね。あとはやっぱりジーンズを履いていたとしても、それにジャケットをさらりと合わせる。そのスタイルがそんなに肩に力も入ってないし、そのバランスの良さはフランスの男性が持っているステキなところだと僕は思うし、自分もそういう格好が好きでそうなりたいと思いますね。パリの紳士服でいうと、右岸のエルメス、左岸のアルニスといわれてたように、右岸と左岸って見る人が見れば違いがあると。昔から左岸のエスプリの象徴であったアルニスがすごい好きで、独特な世界観をもっていますよね。
河合――今日着てらっしゃるのもアルニスですよね。
山下―――そうですね。うちの「カフェ・ド・フロール」の常連さんでも、アルニスしか着てないようなムッシュもいっぱいいて、そこはかとなく親近感をもっちゃうし、勉強になりますよね。将来、自分が20年後ああいう風にアルニスを着れたらステキだろうなと。
河合――日本のサラリーマンのスーツスタイルについてはどうですか? 思うところや、こうすればもっと良くなるというポイントなど教えてください。
山下―――はっきり言っちゃうと日本のサラリーマンってみんなすごいセンスいいなって思うし、おしゃれだと思うんですけど、あんまりオリジナリティーを感じさせる人は少ないのかなって思います。自分の好みっていうのを見つけて、顔が見えるファッションを日本のサラリーマンもこれから目指したらカッコイイなって思いますね。例えば僕の奥さんとかは、僕がアルニスを好きなのをあまり良い顔しないんですよ。似合わないと言うんですよ。
河合――オジさんっぽいイメージがあるのかな?
山下―――そう!なんか年取ってる感じって。でも僕の中では20年後にアルニスが似合う男になりたいと思って、今自分で頑張って着てるっていうのが現状なんで。。。今は板についてなくてもいいと思ってて、男の人生の中でいいものを知るっていうのはすごく重要なことだと思うので、洋服に限らず。そういうアンテナってのは常に張ってた方がいいと思うし、僕自身もこれからも張っていたいと思います。
河合――おしゃれの原点についてはいかがですか?
山下―――僕は幼稚園の頃、警察官になりたかったんですよ。なんでかっていうと制服着てたから。カチッとしてるのが好きで、小さい頃の好みっていうのは一生変わらないのかなと。あと高校生の頃なんですけど、渋谷・原宿界隈うろうろして洋服屋に足を踏み入れるようになって、最初は販売員の方の着こなしとか真似てみたり、色々教えてもらったし、今から考えるとすごい自分の中で財産ですよね。
河合――山下哲也さんにとってダンディズムとは?
山下―――僕が考える日本的な文脈でいうダンディ、ダンディズムっていうのは、いわゆる日本的な“粋”に通じるものがあると思うんですけど、フランスでいうダンディというのは“奇妙な”“風変りな”っていう意味合いがあって、やっぱり日本的なダンディに対してすごく共感するというか、そういうものに対してカッコイイなと思う。見た目のものだけじゃなくて、結局その人の信条であったり、生き方だったり、人としてのスタイルだと思うんですよね。ダンディな服着てても、ダンディな訳じゃなくて、出来ればその中身がダンディだからダンディっていう風に見られる大人になりたいなと、今思いますね。
<スタイリング>
ジャケット / Arnys (アルニス)
シャツ / ブルックス・ブラザーズ
タイ / CIFONELLI (チフォネリ)
スラックス / Arnys (アルニス)
ソックス / ウェストン
靴 / Berluti (ベルルッティ)