河合――葉山の出身でいらっしゃる中村孝則さんにいろいろとお聞きしたいと思います。まずは中村さんのファッションに興味を持つきっかけとなった原体験をお聞かせください。
中村―――僕らの時代、ちょうど学生の80年代中頃にDCファッションブームがあって、その時にファッションに目覚めて、国内のデザイナーさんのお洋服をずいぶん着ましたね。僕がすごく好きなデザイナーでアラン・フラッサーさんって方がいて、特に「ウォール街」という映画がDCブームの前くらいで衝撃を受けました。なので、今でも割とテーラードのスタイルっていうかな、そういうのがすごく好きなんですよね。『アラン・フラッサーの正統服装論』っていう大きな本がありまして、あれでかなり勉強しましたね。まだ高校生か大学生の時だったと思います。そのあとにDCブームがあっていろんな洋服着たりするようになったんですけども背景としてはそんなところですかね。
河合――日本のサラリーマンのスーツスタイルについてはどうですか? 思うところや、こうすればもっと良くなるというポイントなど教えてください。
中村―――皆さん、着こなしはすごく上手になっているなと思うんですよね。特にカジュアルダウンはすごく上手だな、僕にはできないファッションもしているなと思いながら、ある程度カチッとしたスタイルというか、それこそスーツスタイルで、それがもうちょっと上手くなるというか、自分が楽しむファッションもそうだけども、例えば僕が、海外取材で出張に行く時なんかも、やはりそれなりの格式のホテルですとか会合なんかでいうと、皆さんスーツをきちっと着こなしてて、スーツってツールっていうか武器というか、もうちょっと洋服をコミュニケーションのツールとして上手に活用するといいんじゃないかと思います。
河合――それをきっかけにね。
中村―――そうですね。それをきっかけにまた仕事が上手くいったり、人脈が広がったりすることがあるんじゃないかと思います。
河合――今日着てらっしゃるお洋服もJAPANESE DANDYに出ていただいた時のスーツですよね?
中村―――そうです。このスーツは「ドーメル」というフランスのファブリックブランドのショウルームに行ったときに、たまたまこの生地があって、スポーテックスって戦前のデッドストック生地なんですよ。「あ。キレイだな」と。色目があるのがすごく好きなのでこれをスーツにできるか聞いたら、できるって言うんでそれで作っていただいたものです。こういうザラッとした感じの、着古して自分の風合いに合わせるとか、そういう楽しみも最近ちょっと分かるようになってきたので、そういうファブリックの楽しみもあるんだよというのはいろんな人に伝えたいなと思います。
河合――結婚式であったりパーティーであったり、そういった晴れの場での着こなし方というのを教えてもらえますか?
中村―――そういうある種のセレモニーっていうのはキチンとしたフォーマルウェアなり、それなりのスタイルをするいい機会だと思うし、セレモニー以外でそういう場はあまりないので、めんどうくさいと思わないでキチンとした格好をトライしてもらいたいなと思うんですよね。
河合――そういう格好も楽しむってこともあればいいんでしょうね。
中村―――そうなんです。例えば結婚式なんかで新郎もそうだし、参加する側も蝶ネクタイの人も多いと思うんですけども、例えば蝶ネクタイを自分で結んでみるとかね、苦労しながらやってみることによって自分で調べたり得られることもあるので、積極的にそういうことをトライしてみてほしいなと思います。
河合――案外、蝶ネクタイって綺麗に左右均等に結ぶのが良いとされている訳でもないじゃないですか。結び方をあえてアシンメトリーにすることでその人らしさが若干出るみたいなね。中村さんは作法や礼法、剣道などをなさっておられるんですけど、日本のものから見た、中村さんが感じるダンディズムとは?
中村―――ダンディズムって、特に日本の美意識の場合は一言で言うと慎みの美学っていうのがあって、慎みながらも滲みだすみたいな。
河合――ある種のストイックさみたいなところですかね?
中村―――そうですね。結局ダンディズムってなにかっていうとコミュニケーションなんですよね。自分自身を見てダンディズムじゃなくて、人が感じるものなので。それをどう感じてもらうかっていうことだと思うんですよね。日本古来のものをやっていると割と身に着く早道だなと思いますね。
河合――ベースにあるものは和でも洋でも人間として同じで、男としての生き方だとか接し方だとかそういうことかな。
中村―――そうですね。
河合――では最後に、昨年、秋に中村さんが出された葉巻についての共同著書についてお聞かせください。
中村―――昨年の10月末に「THE CIGAR LIFE」という書籍を共著でシガー評論家の広見護さんと一緒に出しているんですけども、オールシガー大全みたいな決定版ですね。シガーもダンディーな男たちのキーアイテムじゃないですか。ファッションアイテムでもあるので、ファッションとしてのシガーの魅力っていうのも知ってもらいたいなと思っています。