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山形県東部に位置する天童市は、山に囲まれて温泉も豊富な自然豊かな地で、将棋駒の町として全国的にも著名な土地。駅には将棋交流室が設置されていたり、ホテルのロゴデザインに将棋駒が採用されるなど街中が将棋駒であふれている。温泉街も存在しているからか、街には独特でゆったりとした心地良い空気が流れている。そんな天童の街に、世界に誇る成形合板技術を擁する天童木工の工場がある。
まず驚いたのは工場のエントランス。工場とショールームを連絡する通路なのだが渡り廊下としては珍しい円筒状。まるで宇宙空間へいざなってくれるようだ。設置されてからかなり時間が経っているそうだが、デザインは近未来的で古い印象はまったく無い。この感覚は天童木工の家具と近いものがある。コアプロダクトのひとつ、バタフライスツールはまさにその通りだ。柳宗理がデザインしたそのスツールは1956年に発表された。そのデザインは当時も、60年以上経った今も斬新ながらも普遍的。時が経っても変わらず愛されるバタフライスツールのように、天童木工が目指すフィロソフィーをエントランスからも感じることができる。
そんなエントランスを通過した先に工場がある。工場内はというと、まるで工房がいくつもあるよう。コントラクト事業もおこなっているので効率化を図るためにライン化されてそうだがそうではない。それぞれの工房のプロフェッショナルたちが他では習得することが難しい技術で、家具をひとつひとつ丁寧に完成させている。
成形合板での熟練作業員の手さばきは、それはため息が漏れるほど見事。当日の温度や湿度、合板のコンディションなどを見極め成形していく。一見すると簡単そうに見えるのが熟練の技。一人前になるまでに10~15年は要するそうだ。
塗装の工程では木本来の模様を活かす技術が要求される。塗っては磨き、塗っては磨きという作業が繰り返されて深みが出て美しくなり、そして家具そのものが保護される。天童木工のその作業は一般的な回数よりも多くなるが、どの家具も木目が活かされている。ここでの技術もすばらしい。
特徴的なデザインが出ることから、天童木工=成形合板技術と理解されがちだがすべての工程においてハイクオリティな技術を持っている。
そのような工程がいくつもあるにも関わらず、数々のコントラクト事業に取り組んでいるのだから驚きだ。
そして、上記のような優れた技術を持つ工場作業員のほぼ全員が天童市、またはその周辺の出身という。冒頭に述べたように、天童市はとても心地よい空気が流れる土地だ。その影響からか、工場内の雰囲気もとても良い。ゆったりとした流れの中で確かな技術を持った作業員たちの手で作り上げられたその家具たちからはおおらかさ、やさしさを感じることができ、日本の家屋であればどんなものでもしっくりくるはずだ。
余談だが、筆者たちスタッフが帰る際に、天童木工が独自に作った「天童木工のある街」というA3サイズの地図をいただいた。そこには天童木工のスタッフたちがオススメするスポットが一言コメントとともに余白なく書き込まれている。自分たちが生まれ育った街を愛していて、誇りに想い、それをお客様におもてなしするその心にとても感動した。
技術がすばらしく、それを扱う人たちもすばらしい。だからこそ、そこに惹かれる数々の著名デザイナーが魅力を感じ、傑作が数多く生まれたのだろう。そしてそれはこれからも生まれるに違いない。外見の美しさだけではなく、内に秘める美しさも兼ね備えているのが天童木工の家具たちだ。