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東京は浅草。ここに世界で名を馳せる“TSUGE” ブランドのパイプを製造する「柘製作所」がある。
現社長である柘恭三郎氏の父・柘恭一郎氏が象牙パイプの奉公をしたことをきっかけに、1936年、喫煙用パイプや印材、箸、耳かき等の象牙製品を製作するために柘製作所を創業。当初は象牙製品が主流であったが、終戦直後、進駐軍によるパイプたばこの放出や、パイプを使用するマッカーサー元帥の姿が報道されたことでパイプの需要が高まり本格的に生産を開始した経緯をもつ。日本の喫煙文化をけん引してきた存在であり、今年で創業80周年を迎える老舗メーカーだ。
一口にパイプというと一般的にはあまり馴染み深いものではないかもしれない。しかし喫煙文化そのものを紐解いていくとその歴史は深く、日本人にとってもタバコが伝播してきた16世紀末頃にはじまり、明治、昭和の高度成長期から現在まで、人々のライフスタイルに密接に関連してきた存在であるといえる。
柘製作所のパイプは、材料の仕入れから、木や金属の削り出し、磨き、仕上げに至るまで一貫して自社で製作される。中でも「イケバナ」シリーズは柘製作所の最高級ハンドメイドパイプとして世界に知られる逸品。そのフォルムは艶かしいほどのオーラを放ち、美しく浮かび上がる木目はまさに美術工芸品そのもの。そんな「イケバナ」を手がける福田和弘氏は15歳で入社して以来60年以上、パイプ一筋に経歴を重ねてきたレジェンドといわれる職人。一人で全行程を完結し研ぎ澄まされた感覚で作り上げられるパイプは、その緻密な仕事ぶりから世界中の愛好家に高く評価されており、完成した製品は直ちに売り切れてしまう状況だとか。
パイプの造りは至ってシンプルだが、それだけに“TSUGE”のパイプは極上の素材を組み合わせて作られている。素材となるブライヤーはツツジ科の潅木の根隗。自然の素材であるがゆえ、決して同じ形には仕上がらない。削っていく過程で中に喰った石がでてくることもあるからだ。決して思惑通りには行かない。しかしそこに面白味があり、また選び持つ者にとっても、自身が手にしたパイプがどのような過程を経て作られたものなのか想像する楽しみがある。
パイプを取り出し、火を付け煙をふかすまでの一連の仕草に男のダンディズムを匂わせ、目に見える良さだけではない見えない感覚は、手にした時の馴染み具合とともに、エロティックな優美さと力強さを持ちあわせる。
喫煙とは、味覚だけでなく、嗅覚や視覚などあらゆる感覚器官を使って楽しむ嗜好品。だからこそ、それをマスターして自分なりのスタイルを持つことで“カッコイイ大人”を演出できる。知るほどに深く、より楽しむため、レザーのように使うほど味がでてくるパイプ。育てていくことがなによりの愛着へと変わっていくのだ。