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ケータイ、スマートフォンの普及によって人々の時間確認の方法が変化し、同時に腕時計がそれまで担っていた役割がこの十数年でガラッと変わった。その変化に対応するようにスマートウォッチに代表される高機能時計もデビュー。腕時計は時間を確認するためだけのものではなくなり、生活を豊かにするためのツールとして、そしてアクセサリーとしてなど役割は多様化し細分化された。そこで後者の役割として改めて価値が見直されたのが機械式時計だ。ステータスシンボルのひとつ、という印象が世間的には強く、どれだけ手間がかかり、どれだけ高価な部品が使われているか、そんな部分がフィーチャーされがちだ。しかし雫石高級時計工房はそのような我々が持っている表面上のイメージを払拭し、”時”の価値を改めさせられる場所であった。
雫石高級時計工房は、岩手県の盛岡駅から車で30分程度の場所、雫石町にある南部富士と言われる風光明媚な岩手山を望む盛岡セイコー工業の中にある。工場を取り囲む雑木林には絶滅危惧種の植物も存在しており、同社の環境管理課がきちんと管理しているという。とても手入れが行き届いていて見た目にも気持ちがいい。
10haの広大な敷地を誇る工場では約600人が働く。完全自動化されたクオーツ時計用の駆動部(ムーブメント)の生産工場と隣合う場所に、機械式腕時計の専門工場、雫石高級時計工房はある。ここでは時計部品の加工から、組立、調整、検査、出荷までの一貫生産が行われているのだ。
工房で働く人の大部分は腕のある職人たち。職人というと職人”気質”と結びがちだが、彼らはそういう言葉とは無縁なほど実直な人ばかり。工程の中にシャープペンシルの芯(0.5mm)よりも細い部品を研磨する作業がある。カタンカタンと反復する機械音のリズムの中、それと同調するように作業を反復している職人。ここまで繊細な作業の繰り返しは真正面のことにひたむきに対峙できる実直さを備えてないとできない作業だ。それをこなすことができる多くの職人がこの工場には存在している。
現代の名工が組み立てる究極ともいえるほどの細やかな作業は必見だが、そこまでの過程で関わる職人の腕も確かでなければグランドセイコーの時計は完成しない。
時計作りに誠実で正直な人が関わっているからこそ、スイスのクロノメーター検定を上回る精度を持つ独自の【GS規格】を作り上げ、それをクリアする世界最高峰の時計が完成する。
そして、この工場で完成する時計の中には雫石高級時計工房から望む雄大な岩手山の山肌を表現した「岩手山パターン」がある。その主張はとても控えめだ。少し離れてみるとそれはわからないが、近くで見たときの輝きと細かいデザインはお見事。この控えめな主張はとても日本人らしい。この主張とデザインは、工場で働く人々が雫石の地で働くことを心から誇りに思っている確たる証拠。グランドセイコーの機械式腕時計の中身からデザインまで、雫石高級時計工房の要素がひとつとして欠けてはならないのだ。
ここまでの過程を見ればグランドセイコーの時計はモノとしての価値だけではなく深度と幅がある価値を感じることができる。時計にこれだけの価値を見出せる、このような機会を逃すのは実に惜しいことではないだろうか。
時間を確認するときにこれらを想い、見ることができればそれはとても愛おしいこと。それで”時”の価値はあがり、自身の心に奥行きをもたらす。それを可能にするのが雫石高級時計工房で完成するグランドセイコーの機械式腕時計だ。